【短編】火曜日の短編
(1)
「わかってるよ」
数十秒の沈黙の後、彼は不意に呟いた。
PC画面越しに目が合う。
高校生の時から変わらない、茶色掛かった目である。
いつもはその目をクシャクシャに細め、スーパーカブ50のエンジン音より少し大きめの声で笑うゲラな彼の表情は、真剣そのものであった。
(ジ・エンドだな)
この夜さえ明けていれば、世界は変わっていたのに。
終わりを告げるアラームが、静かに鳴った。
(2)
「いやもうほんと、ゲンナリしちゃって。
目星はついていたんですよ。あとは夜が明けて、いざ核心に触れた時にどのような反応をするかで、場合によっちゃあ猛攻撃を仕掛けようと思っていたんですけどね。
ほら、リモートの良い所って、一人一人の表情が良く分かることだと思うんですよ。
ところが、これがオフラインになった途端、主導的に話す人の方に、視線が行きがちになってしまう。そうすると、周りの人間の小さな機微を感じ取れなくなってしまうんですよね。
だって、3日目の夜には勝負決めたいじゃないですか?もうこんなこと、こりごりだし。
で、よし、やったるでって思いながら朝を迎えたら、死んでたんです。嫌になっちゃいますよね」
(3)
母子家庭で生まれ、父の顔は未だに見たことがない。
昼は事務業、夜はスナックと、母は1日中働き詰めであったが、毎朝のお弁当だけは欠かさなかった。
俺は高校を卒業してから、近くのジムでインストラクターのバイトを始めつつ、9歳離れた妹の面倒。参観日にも行ったし、宿題は小学校までだったら教えられたし。苛められたと泣きながら帰ってきた日は、仕返しに金属バットで苛めっ子宅へ殴り込んだ日もあったな。そのくらい、俺が守らなきゃいけないって。
だから今回、うってつけだと思った。
筋肉しかない男だと思われがちだが、多少の運は兼ね備えているつもりだ。
なにより「誰かを守ってきた」キャリアが違うんだわ。
俺たちは初日の夜を迎えた。
(4)
(5)
国家よりコロナウイルス対策として緊急外出禁止令が発布された翌日、コンビニでカップ麺を買って家路を急ぐ私に友人Aから連絡が来ました。
要は、巷で流行りつつあるリモート飲みでもしようじゃあないか、というお誘いでした。
社会人になってからも週に1回は集まる、仲良し6人組で、とのこと。
その日の夜、自家製のハイボールと充電ケーブルに挿したスマートフォンを準備した状態で、6人同時のリモート通話が始まりました。
初めはやりにくいと思っていたのもつかの間、現代の文明発展は恐ろしく、ものの5分で行きつけの居酒屋で酒を酌み交わしているような、そんな感覚がしていたのを覚えています。
明日になったらまるっきり覚えていないような、たわいもないお下品ジョークの後に、マッチョな友人が服を脱いで全裸になり、Aが大笑い。いつも通りの下りを終えた後、唐突にAが提案したのが今回のゲームでした。
1日目の夜にマッチョが自分の業績を吹聴したいがために役職を公にしたのは笑いました。
やっぱあいつ脳筋おバカさんだな。
A ;市民
(1);人狼
(2);占い師
(3);騎士
(4);市民
(5);市民